桜の季節はさくら餅や花見だんご、夏は氷室饅頭に葛饅頭、秋になれば栗きんとん、新年のお祝いには石川県の正月菓子「福梅」と、和菓子を通じて季節の移り変わりを楽しむ人は少なくないのではないでしょうか。

白山市を流れる手取川にかかる天狗橋のたもとにある三代続く「和乃菓ひろの」は、「萬歳楽」で知られる小堀酒造店の大吟醸酒粕を使った一番人気「菊姫まんじゅう」をはじめ、地元「大屋醤油」の醤油を使った「ひゃくまんごく団子」や昔ながらのあんドーナツ、フルーツ大福などが幅広くそろう街の和菓子店。

季節の和菓子だけでなく、地元にある「歌占の滝」にちなんだ和菓子「歌占餅（うたうら）」など、鶴来の風土や文化を表現した商品もラインナップしている地域密着のお店です。

「うちは見慣れたお客様が多いです」と話すのは、三代目・純一さんと共に店を守る広野千佳子さん。

「お客様は地元の方が大半なので、新型コロナウイルスが流行ったときも影響がほとんどなかったんです。日々のおやつを買い求めにいらっしゃるお客様もいますし、結婚や出産、進学のお祝いや内祝いで利用していただくことも多いですね」と言います。

「鶴来は自然が豊かで、子育てをするにもぴったり。大きなお祭りが残っているから人と人とのつながりもあって、顔を見たらすぐに『どこの家の〇〇さん』ってわかるんです。そういう顔が見える付き合いが、プライベートだけでなくお店に立っていてもできるのが嬉しいですね」。

和菓子店で働く魅力は「やっぱりお客様から喜んでいただけることですよね。それに季節によっていろんなお菓子を作るので飽きることもありません」。

家族3人、パート2人という少人数での職場だからこそ、ここで働く人たちは、製造だけでなく梱包や接客など様々な業務に携わる機会があります。また、ダブルワークや育児との両立などそれぞれのライフスタイルにあわせた働き方ができるだけでなく、休みの調整も柔軟に対応。基本的には製造、販売どちらも経験をしますが、特性や能力に合わせて仕事内容を調整しているそう。

実際に製造している現場を見学させていただきましたが、工房はアットホームな雰囲気で、千佳子さんと純一さんが従業員たちを見守る様子は家族に対する眼差しのようでもありました。

入社6年目、好きな和菓子は酒饅頭とあんドーナツという立川さんは「僕は幼い頃からここの和菓子に親しんでいたんです。ご縁があって働き始めたのですが、一口に和菓子と言っても色々な種類があって面白いですし、純一さんや千佳子さんが丁寧に教えてくれるので働きやすいです」と教えてくれました。

「自分が大人になれたのは、家業があったおかげ。恩返しまではいかないけれど、多少なりとも地域や家業に貢献したいんです」と語るのは、鶴来で生まれ育った三代目・広野純一さん。

日々和菓子と向き合いながら、地元の小学校へ出向いて和菓子教室を開いたり高校生と共に新しい商品を開発したりと、次世代へ和菓子の奥深さを伝えています。

「大切にしているのは、父から学んだ基本をしっかりと守ること。お菓子作りだけでなく仕事全般に言えることですが、基本ができていないと次のステップには進めない。従業員に和菓子を教えるにあたっては、核となることを伝えられればと思っています」。

人と人との結びつきが強い土地柄、「菊酒まんじゅう」や「ひゃくまんごく団子」のように他店とのコラボレーションにより新しい商品が誕生することも。「店同士のつながりや、信頼できる人たちとの付き合いがあるのはありがたいことです」と話します。

近年では鶴来出身の作家・なばたとしたかさんが手掛ける「こびとづかん」のキャラクターを模した上生菓子や「菊姫まんじゅう」を求めて遠方から訪れる人もいるそうで、「白山比咩神社を参拝したついでに、鶴来の街を巡っていただけると嬉しいですね」と千佳子さん。

日常から特別な日まで、人生の節々に「ひろの」の和菓子が寄り添います。