近所に住んでいる人の「顔が分かる」のは、
当たり前のようですごいこと。
商品の企画・販売や不用品買取・販売を行う「KALANCHOE(カランコエ)」代表の渋谷明子さんが石川県白山市に引っ越してきたのは2021年春のこと。首都圏で働いていた頃に領一さんと出会い、2010年に結婚。埼玉県に生活の拠点を置き作業療法士として病院で働いていたところ、新型コロナウイルスの感染が拡大し、移住を考えるきっかけになったと言います。
長野県出身の明子さんと、北海道出身の良一さん。移住先を選ぶにあたって縁もゆかりもない石川県を選んだ理由は「結婚したばかりの頃に金沢を観光で訪れて、ごはんはおいしいし自然も豊かで、ものづくりも盛ん。石川県っていいなという印象が残っていたんです」。
移住を考え始めてから実行に移すまでわずか1年というスピード感に驚きましたが、実際に石川県に移住して感じたリアルな体験談や、仕事の変化についてお聞きしました。
現在の仕事を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
明子さん
もともとはフリマアプリのメルカリで不用品や洋服を販売するのが楽しくてハマっていたのですが、家の中に売るものがなくなり、そこで海外から商品を仕入れて販売するようになりました。上の子の育児休業中にネット販売を始めて脱サラし、2020年春に起業した形です。夫はデザイナーをしていて写真を加工したりデザインしたりすることもできるので、商品開発の相談やカタログづくりの協力などをしてもらい、現在はAmazonや自社サイトなどのほか、クラウドファディングやふるさと納税などでも販売しています。またオンライン古物市場では事業者さん向けにライブコマースなども行っています。
在宅での仕事ということですが、石川県に移住してから仕事の内容は変わりましたか?
明子さん
実はずっとものづくりに興味があったのですが、首都圏でものづくりをしても、なかなかビジネスにならないジレンマがありました。一方、石川県で地元のひとと共に地域資源を使ったものづくりをすれば、それ自体が価値になる。健康に役立つものを作りたいと思って鶴来商工会に相談したところすぐに地元の工務店をご紹介いただき、白山市で育った欅(けやき)で作る青竹踏み「ふっと楽・欅」が誕生しました。ほかにも、地元の洋菓子店や林業家の人などと協力して開発した杉を使ったジンジャーシロップ「杉蜜」、着物をリユースしたルームシューズ「着物de布ぞうり」などをこれまで手がけています。
移住のきっかけは2020年に始まったパンデミックだったとのこと。当時、首都圏での暮らしはどのようなものだったのでしょうか。
明子さん
感染拡大当初は下の子が0歳、上の子が2歳だったのですが、公園の遊具が使えなくなり、感染が怖くて電車にも乗れなくなって本当に大変でしたね。幸い、私も夫も全国各地どこでもできる仕事だったので、思い切って家を売却して移住しようと。
石川県が候補に上がり、金沢でも物件を探したのですが、白山市を訪れたときの印象が自然豊かで子どもをのびのびと遊ばせてあげられそうだなと思って。
スピード婚ならぬスピード移住という印象を受けましたが、実際に白山市で暮らし始めてギャップなどはありましたか?
明子さん
実家が県外なので両親を頼ることができず、こちらに引っ越してきてから幼稚園に入園するまで一ヶ月ほど家で仕事をしながら子どもの面倒を見るのはすごく大変でしたが、市のファミリーサポートセンター事業や預かり保育を活用して乗り切ることができました。ギャップといえば、首都圏だったら数万円かかるところ、かなりリーズナブルに利用できたので驚きましたね。
移住してすぐに幼稚園へ入園できたのですね。
明子さん
そうですね、待機児童問題が深刻な首都圏だったら絶対に無理だったところ、すぐに幼稚園を利用できたのもありがたかったです。保育も手厚いですし、給食が美味しいって子どもたちも喜んでいます。
家族でよく遊びに行くスポットやお気に入りの場所はありますか?
明子さん
去年から家族で釣りにハマっていて、よく白山麓にある「吉野観光」の釣堀へ遊びに行きます。子どもたちはもともと魚が苦手だったのですが、釣りを始めたおかげで魚が食べられるようになったんです!県内外でキャンプをしたりバーベキューをしたりとアウトドアを楽しんでいます。
子育ての点で、首都圏と比べて良かったところはどんなところでしょうか。
明子さん
挙げたらキリがありませんが、遊べる場所がたくさんあるところは良いですよね。埼玉県はどこへ行ってもすごく混雑しているか、料金が高かった。白山市はどこも混みすぎているということはありませんし、それに一時間も車を走らせればいろんなスポットがあるので飽きないです。
「移住してから大変だったことは、よくも悪くも人付き合いが濃いこと。最初はとまどいもありましたが、助けられていることの方が多いです」と笑う、明子さん。首都圏や集合住宅で暮らしをしていると、隣に住んでいる人の顔を知らないということも少なくありませんが「近所に住んでいる人の顔がわかるからこその安心感があります」という言葉に、私たちが当たり前としていることが実はスゴイことなのだと気付かされました。
KALANCHOE