新築戸建をはじめ中古物件のリフォーム・リノベーション、オーダー家具の製作などを手掛ける「建築昌英」。

年間施工棟数をあえて絞ることで依頼主の要望を丁寧に汲み取り、既存の枠組みにとらわれない開放的な空間を設計。ハウスメーカーではできない現場での細やかな手仕事を得意としています。

木組みの家造りなど日本の伝統構法を大切にしながら現代の生活に合うようにアップデートした住宅は、木の温もりや匂い、肌触りを感じられ、経年変化を楽しめる家として人気を集めています。

「鶴来を盛り上げている中心人物といえば」という評判を聞いて、代表の松村昌英さんに会いに白山市鶴来上東町の本社を訪れました。古い建物をリノベーションした社屋は、一歩足を踏み入れると木のぬくもりがありながらもスタイリッシュな空間が広がっています。

「もともと築70年の歯科医院だったんです。地域にもともとあった資源を生かして空き家を利活用していければと思って。ここ（社屋）ができてから具体的なイメージがしやすくなったのか、リノベーションのご相談も徐々に増えてきました」と言います。

「建築昌英」が取り組んでいることの一つが、職人の仕事を守ることです。数十年前から住宅業界では低価格で提供するために誰でも作れる家、つまり技術がなくても家を建てられるようにすることで職人にかかるコストを削減してきましたそうですが、松村さんは受け継がれてきた技術や職人の仕事を守るために積極的に採用。

「僕たちがどれだけ良いアイディアを思いついても、技術がなければ形にできない」と、職人との信頼関係のもと、こだわりの家づくりを行っています。

鶴来の魚屋で生まれ育った松村さん。高校3年生の頃に中退し、20歳までに一生できる仕事を身につけたいと思って選んだのが大工だったのだそう。その後、16年間地元の工務店で大工職人として建築技術を磨き、独立しました。

「高校を辞めてヤンチャしていたときも、鶴来の人たちの大らかさに見守ってもらったなって気がしているんです。だから、今度は自分が地域の役に立ちたいんです」。

会社づくりと地域づくりは一緒であると考え、地元の人の起業サポートや店舗リニューアル、学生と協力して交流拠点やシェアハウスなどをオープン。また、「ウーブンナック」代表の久光さんと共に（実はお二人は親戚同士！）「おついたちマーケット」をはじめ鶴来を盛り上げるための様々なイベントを開催しています。

ちょうど取材当日は「建築昌英」が携わったセレクトショップ「なんか」のオープン日。お邪魔してみると、もともと呉服店だった建物の土壁や什器を生かした店内は、新しいものと古いものが織り混ざった素敵な空間に仕上がっていました。

「独立したばかりの頃は信用もないし苦しかったけど、一所懸命取り組むことで、少しずつ周りの人たちに認めてもらえるようになってきました。会社の従業員たちも地域の人たちも、みんなが幸せになれるように仕組みづくりをしていきたい」。

地域の伝統文化を守ることやイベントを開催して鶴来を訪れる人を増やすことは、ひいては街の活性化につながり、会社の発展にもつながるという信念を持つ松村さん。

「一緒に働く仲間は、前向きで、素直で、情熱があって思いやりがあれば、特別な技術は要りません」と語ります。

「社長にはアツい熱があって、みんなそれに巻き込まれるように楽しくやっています。ものづくりが好きな、熱い思いを持った人と一緒に働きたいですね」と入社2年目の朝本さん。

松村さんは「従業員の幸せは、会社の幸せ」と、従業員の人生が豊かなものであるよう在宅勤務や突然の早退、子連れ出社などにも柔軟に対応。「家族との時間を大切にしてほしい」と話します。

また雇用形態に関わらず一つのチームであるという考えから、パートタイムの従業員も決算賞与や誕生日プレゼントを支給しているなど、手厚いサポートがあります。

近年、白山市内に本社を置く「なかの林業」、「あさひ木材」と協力し、鶴来・白山麓地域で生産された材木の切り出しから建設までを一貫して行うプロジェクトを立ち上げた「建築昌英」。「外国産の木材を使ってコストを押さえたいという流れに対抗して、地元の良質な木材をより低価格で使える仕組みを作ることにより、木の循環、仕事の循環、雇用の循環を作りたい」と松村さん。

取り組みの第一弾となる地元産の木材による住宅は2024年にも完成予定とのこと。地元・鶴来に対する思いが、どんどん形になっていきます。