昭和30（1955）年に創業、先代の森征光さんが設立したこんにゃくをメインとして製造を行う「森こん」。

自慢のこんにゃくをはじめとして夏の定番・ところてんや冬の鍋料理にぴったりのくずきりなどを手掛けており、石川県内をはじめ全国のスーパーに商品が並んでいますが、こんにゃくを買い求める際に意識してメーカー名をチェックする人はそれほど多くないのではないでしょうか。

「地元の人やったら知らんうちに一度はうちのこんにゃくを食べたことがあるはずだよって言うと、けっこう驚かれるんです」。総務部長・玉井光恵さんはそう言って笑います。地域に根ざしたこんにゃくメーカーとして学校給食用のこんにゃくを白山市や野々市市、能美市などに提供しており、地元の人は幼い頃から煮物やおでんなどの具材として「森こん」の商品を気づかないうちに味わっているというわけです。

おいしい水が決め手のこんにゃく。霊峰・白山の雪解け水がゆっくりと地下を通り自噴し井戸でくみ上げた「白山の伏流水」と国産のこんにゃく芋だけを使い、丁寧に練り上げ、炊き上げたこんにゃくはしっかりとした歯応えが特徴です。

工場生産と聞くと、ついオートメーションで仕上がる様子を想像しますが、「どうしても人手が必要なことはあり、また品質管理のために必ず目視でのチェックも欠かせません」とのこと。多くの人の手によって、日々安心安全な商品が生み出されています。

「個人的には、豚汁に入れたり、煮物やおでんに使ったりするのがおすすめです」と語るのは、取締役統括部長の浅野貴宏さんです。約20年前に入社から一貫して営業を担当しており、県内外を飛び回って「森こん」の魅力を伝えています。

「取引先の皆さんから本当に良くしていただいているので、感謝しかありません。うちの会社は年齢差はあってもいわゆる上下関係はほとんどなくて、面白い人もいるし楽しい職場です」と頬を緩めます。

例年おでんや鍋のシーズンである冬が最も注文が増えますが、夏はところてん、また学校や病院、スーパー、市場などさまざまな卸先があることから、売り上げは年間を通じて安定しているだけでなく、年々事業が拡大している隠れた成長企業です。

「森こん」を営む両親の元に生まれた玉井さんは、従業員がより働きやすい環境づくりを目指し、「みんなで幸せになろう」をスローガンとして「健康経営」の取り組みの一環として外部講師を招いて健康や生活管理について学ぶ機会を作るほか、全ての社員が有給休暇を一日でも多く取れるようにしたりと環境の整備に励んでいます。

「当社は一般の方への知名度はまだまだですが、就職先として積極的に選んでもらえるようイメージアップをしていきたいと思っているんです。気兼ねなく休みを取れるようにしたり、健康経営の活動をしたりするのは、そうした取り組みの一貫です」。

社員同士が協力し合う風土が根付き、休憩時間には会話も弾む、アットホームな場面も。「一日のうち、家庭以外でそれなりの時間を過ごすことになる職場の雰囲気を大切にしたい」と玉井さん。勤続20年以上の社員も少なくなく平均年齢は40歳以上となっており、「長く続けられる仕事ということを盛り込ん（もりこん）でいただければ！」とジョークを交えながらアピールします。

工場や事務所の各所に掲示されている社訓「100-1=0」。解釈は社員によって様々とのことですが、「どれだけ素晴らしい仕事をしていても、一つでも信用を失うようなことをしてしまえば結果はゼロになる。それくらいお客様や取引先からの信頼は大切ということなんです」と浅野さんが教えてくれました。

旧・鶴来新町からスタートし、商店街や地元の人たちとのつながりのなかで街から育ててもらったという「森こん」。幼稚園や小学校、また福祉コミュニティへ出向いて手作りこんにゃく教室を開催したり、過去には地元のイベントでおでんを振る舞ったりと、今なお地域との結びつきを大切に、地道な努力で信頼を獲得しています。

「やっぱり、森こんを選んで買ってもらえると嬉しいですよ」。こんにゃくは料理の主役になる機会こそ少ないものの、異なる食感や味わいを加えてくれる名脇役。

取材時、お土産としてこんにゃくやくずきりをいただいたのですが、持ち帰ったところ家族が大喜び！鍋に入れたり豚汁に入れたりして楽しみました。まだまだ知らない、こんにゃくの底力を「森こん」で見つけてください。